日本プロレス時代のアントニオ猪木選手といえば、必殺技はコブラツイスト(アバラ折り)でした。
猪木さんは新日本プロレス旗揚げ後、世紀の一戦を迎えます。そう、ご存知の異種格闘技戦、アントニオ猪木VSモハメド・アリ戦です。当時飛ぶ鳥を落とす勢いのボクシング世界ヘビー級チャンピオンのアリとの一戦は、猪木選手が低空のアリキックを連発し、お互いクリーンヒットのないまま引き分けとなりました。
マスコミには世紀の凡戦と叩かれましたが、前出の猪木さんの自伝にもこの試合に関する詳しい記載があり、かなり猪木選手にとってリスクの高い試合だったことがわかります。頭部への蹴り、パンチ禁止、投げ技禁止など、ルールがめちゃめちゃ猪木選手に不利な試合なので、あの展開しかないのでした。なんと、あのアリの拳は石膏でバンテージをカチンカチンに固めてあったため、拳が顔をかすっただけでスパッと切れたそうです。
しかし、燃える闘魂はやはり違います。
ボクシング世界チャンピオンという未知なる敵との闘いを控え、プレッシャーで食欲も出ない、肩も痛めて非常にコンディションが悪い中、試合では使えずに幻の秘技となりましたが、『延髄斬り』(当時はジャンピングハイキックと呼ばれていました)を編み出していたのでした。
そんな誕生秘話を持つ延髄斬りには2種類の入り方があります。
ひとつは、ジャンピング型です。ブレーンバスターやバックドロップなどからフラフラと立ち上がった相手の後頭部にジャンプ一番、渾身のキックを叩きこむ方法です。
もうひとつは、ロープワーク型です。ロープに相手をふり、戻ってきた相手にカウンターで後頭部をとらえるものです。難易度、技のキレ、破壊力、どれをとってもロープワーク型が素晴らしいです。ロープワーク型こそが延髄斬りだ、と主張するプロレス評論家もいます。
人間の脳と体を結ぶ、大切かつ弱い部分である延髄に、カウンターでハイキックが「シャー」という掛け声とともに気合一閃、叩き込まれる様子を想像してみて下さい。いかに恐ろしい技かがよくおわかりいただけると思います。